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文学の家 国際文学館 村上春樹ライブラリー
進化を続ける実践的な学びの場としてのカフェ
橙子猫 ─ Orange Cat ─ スタッフ座談会
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国際文学館に併設されているカフェ「橙子猫 -Orange Cat-」。
店名は村上春樹氏が命名し、学生時代にジャズ喫茶を経営していた村上氏の提案により、学生が主体的に店舗経営をしている。
店長、副店長、企画運営部長、商品開発部長の4人が、店舗運営について語り合った。
写真=蔦野 裕 写真提供=橙子猫
3年間で組織体制を強化
チャレンジも活発に
ーー当初3人の学生から始まったカフェ「橙子猫 -Orange Cat-」の運営は、オープンから3年を経て、現在28人の学生が関わるほどに広がりを見せています。まずは、皆さんのお仕事について教えてください。
小松崎夏帆(以下、小松崎) 文化構想学部2年生で店長を務めています。店長・副店長は経営陣として、店の売り上げや決算、年間予算などを管理し、経営方針を決めるのが主な役割です。他に大学や外部の方々との窓口対応、契約・発注、在庫管理などを行っています。六つの部署(広報部、経理部、企画運営部、商品開発部、人事部、衛生管理部)の統括も経営陣の仕事ですね。
山崎悠太郎(以下、山崎) 社会科学部2年生で副店長をしています。店長の業務の幅が広いので、それを補佐するのが副店長の主な仕事です。副店長は2人体制で、6部署の統括を3人の経営陣で分担しています。カフェのシフトに時間帯責任者として入ったり、お客さまから頂いたご意見をスタッフに伝えたりといったサポートもしています。
内山咲(以下、内山) 文化構想学部2年生です。商品開発部長を務め、既存のメニューの改良と、新商品の開発をしています。村上春樹さんの世界観を大切にしつつ、学生のお客さまも多いので、注文しやすい価格設定を心がけています。
雲田拓夢(以下、雲田) 文学部4年生で企画運営部長です。月に1回開催している「Monthly Concert」をはじめ、イベントの企画から当日の運営までを担当しています。出演サークルや部活の方との渉外を中心に、広報部と協力してSNSでイベント告知をしたり、商品開発部とコラボレーションメニューを開発したりと、他の部署と連携しながらイベントを盛り上げています。
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ーースタッフの皆さんの所属部署はどのように決まるのでしょうか。
小松崎 基本的には自分が希望した部署に配属される決まりになっています。最初の数カ月はカフェの仕事を覚える期間ですが、慣れてきたら部署の仕事にも参加してもらいます。経理部はお金の管理に関わることもあって人数を最小限にとどめています。
山崎 各部署の仕事は、新人スタッフの手が空いている時にいろいろ見てもらうようにしています。例えば、商品開発部が試作中の新商品を一緒に試食するなど。希望する部署が入店後に変わる人もいます。
内山 私も最初は広報部を希望していましたが、橙子猫のバラエティーに富んだ商品を見ているうちに、自分も作ってみたいと思うようになり、商品開発部へ。橙子猫のメニューは基本的に店内で調理しているので、メニュー開発も楽しいです。
ーー組織体制ではどのような変化がありましたか。
雲田 この場では僕だけ4年生で、スタッフの1期生にあたるのですが、初期に比べると業務の効率化が進んでいますね。最初は開店から閉店まで常にスタッフ4~5人が働いていましたが、今は落ち着いている時間帯は2〜3人が基本になっています。
山崎 部署制になったのも最近のこと。立ち上げメンバーも含む当時の経営陣2人が留学することになり、「業務の整理をしよう」「もっと分担しよう」と変化する中で形になっていきました。
小松崎 部署制を導入して、それぞれのメンバーが役割に集中できるようになったことで、橙子猫が良い方向に進化していると感じます。一人で多くの業務を担当していると、手いっぱいでどうしても新しいことには挑戦しづらい。新メニューの開発も、イベント開催でお客さまとの接点を増やしていけるのも、部署制あっての試みです。
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学生主体の経営だからこそ、「何がやりたいか」を重視
ーー新しいスタッフはどのように募集しているのでしょう。
小松崎 人事部が中心になって、年に1~2回の採用活動を行っています。ありがたいことに応募がたくさんあり、倍率もけっこう高いのです。
山崎 ネットに設けたアンケートフォームの入力内容で一次選考し、通過者の学生と店舗で面接します。経営陣と人事部から2~3人が立ち会って最終的な合否を決めます。
雲田 最近は本当にすごい1、2年生が応募してくれています。面接の様子を見たり、採用担当者からの話を聞いたりしているだけで、熱意が伝わってくる。僕が入った時は、知り合いに「働いてみない?」と声を掛けているような時期で、今の選考だと僕は受からないかもしれません。
ーースタッフを採用する時に重視するポイントは?
小松崎 カフェのアルバイトだけではなく、経営にも携われるからこそ、運営する上でやりたいことが明確にあるかどうかを重視しています。それが「橙子猫でないとダメ」というくらい具体的だとうれしいです。
山崎 オープンしてまだ3年ということもあって、個々人の熱意はダイレクトに反映されます。例えば、衛生管理部はごみの分別や処理、食品の安全管理だけでなく、環境負荷を軽減することにも取り組んでいるのですが、これは1年生スタッフの発案から始まったことです。
小松崎 エコフレンドリーやサステナブルなことに興味を持って、積極的に実践もしてくれている、すごく心強いメンバーです。効率的なごみ収集の仕組みを作ってくれたので、月ごとのごみ袋の使用枚数も減り、経営コストの削減につながっています。
ーー新人スタッフにはどのように業務を教えていますか。
山崎 最初の20時間は上級生が必ず1人付いて、カフェの業務を教えています。部署の仕事の教え方は、各部署のやり方に任せています。
小松崎 年に1度、コーヒー豆の卸元、堀口珈琲さんにご協力いただいて、ハンドドリップ研修も開催しています。ハンドドリップコーヒーは当店こだわりのメニュー。全員が同じクオリティーで淹れられるように、原則として全員参加で実施しています。
内山 メニューを覚える上では、学生同士の風通しの良さもプラスに働いています。誰かが時短テクニックを発見したらすぐにメッセージツールで共有されるので、「やってみよう」という気になりやすい。商品開発部としても基本の手順はしっかり固めつつ、スタッフの創意工夫を積極的に導入していきたいです。
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働くスタッフにとって可能性を広げられる場に
ーー橙子猫の業務を通じて、皆さんはどのような学びを得ていますか。
小松崎 数字を根拠としたビジネス的な思考や視点を学んでいます。経営は初年度より黒字で、売上高も右肩上がり。純利益が減った時期は、原因を追究し経費削減に努めました。また、お客さまや取引先との信頼関係は、自分たちにも良い形で返ってくるのだなと日々実感しています。
山崎 これからの人生でも、リーダーシップを発揮する機会は訪れるはず。経営陣として、スタッフと協力しながら利益を追求することは、今後に生きる経験だと思っています。
内山 責任感を持って何かに取り組めるようになったのは、橙子猫のおかげ。自分が開発した商品がお客さまの手に届くところを見られるからこそ、もっと良い物を作りたいと思い、勉強にも身が入っています。
雲田 企画運営はサークルや校友の方々の協力があって成り立っています。早稲田ならではの人脈の広さに感謝するとともに、人と人とのつながりが次の機会を生む、そのありがたさも感じています。
ーー橙子猫の今後について、考えていることがあれば教えてください。
山崎 代替わりの仕組みを整えたいという話をしています。採用に関しては先輩方が考えてくださったので、部署制をどのように存続させていくのかが課題。僕らが卒業後に訪れても変わらずそこにあるカフェとして、5年、10年と学生主体の運営を続けられるようにできればいいなと。
小松崎 「非日常を日常に」というオープン当時からのコンセプトは変えずに、お客さまがすてきな時間を過ごせるような工夫や仕組み作りにチャレンジしていきたいです。また、スタッフのみんなにとっても自分の可能性を広げられる場をつくりたいと考えています。
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店長
小松崎夏帆 文化構想学部2年
橙子猫のココが好き
勉強している方、お食事を楽しむ方、演奏に耳を傾ける方など、お客さまの過ごし方が見られるピアノ前が好きです。
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副店長
山崎悠太郎 社会科学部2年
橙子猫のココが好き
奥の席はポケットパーク側の入り口に近く、静かで落ち着く空間です。緑もきれいなので、集中したい時はおすすめ!
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企画運営部長
雲田拓夢 文学部4年
橙子猫のココが好き
3年間慣れ親しんだカウンター。自分がこんなおしゃれな場所で働くとは、入学時にはまったく想像していませんでした。
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商品開発部長
内山 咲 文化構想学部2年
橙子猫のココが好き
カウンターに近い席のお客さまが、どんな話をされているのかよく想像します。奥には「村上さんの書斎」もあります!
-Orange Cat-
住所/ 東京都新宿区西早稲田1-6-1
早稲田大学国際文学館B1
営業/ 10:00~17:00
休業日/ 水曜、他国際文学館の開館カレンダーのとおり
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