油田 | 早稲田大学 校友会
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油田

早稲田の三大油田(諸説あり)
キッチン南国

2022年に閉店した「キッチン南海」を引き継ぎ、
同年にオープンした「キッチン南国」。
しょうが焼きやカレーなど
早稲田で愛されてきたその味は、
変わらずにここに
あり続けている。

取材・文=鈴木隆祐
撮影=布川航太

海老フライ・しょうが焼き(980円)
メンチカツ・カニクリームコロッケ(850円)

 1973年にオープンし、50年も早稲田の地で営業を続けてきた「キッチン南海 早稲田店」が、2022年9月30日に閉店した。事前に告知もされず、10月4日になって貼り紙でその旨を知らせるほど突然のことだった。初代店長の大根田新さんが体力の限界を感じたのが理由だったという。長年のファンや学生も驚き、悲しむ声が各所で聞かれることになった。
 閉店後すぐに引き継ぎの話を持ちかけられたのが、南門前でハワイアンカフェ「A&A CAFÉ」を経営していた石井直樹さん。そしてわずか2カ月後の11月28日、新生「キッチン南国 早稲田本店」をオープンした。2カ月の間、大根田さんから「レシピの一切を猛特訓で仕込まれた」のだという。
 南海は1960年に飯田橋で誕生し、66年に神保町に移転。ここに端を発し、都内各所にのれん分けをしてきた。石井さんによれば、早稲田店独自のメニューもあるが、しょうが焼きは「本家本元と変わらぬレシピ」だという。確かに癖になる味だ。肉を頬張ると、二つの風味が同時に口内を巡る。こしょうの香ばしさにしょうがの風味がフワッとのって、調味料由来の甘みもそこはかとなく感じる。一口で2倍おいしいのだ。南海といえば、このしょうが焼きとフライ物の組み合わせメニューが絶大な人気を誇る。石井さんは使い込んだフライパンを見つめながら、感慨深げに語った。
「先代の大根田さんは『新規開店祝いに新しいフライパンをプレゼントするよ』と言ってくださったんです。でも、ぼくは『このフライパンを譲ってください』って頼みました。見てください。同じ箇所がコンロの角に何千、何万回と当たったので、その形が浮き彫りになっているでしょう」
 その出っ張りをいとおしげになでながら、石井さんは「ここにこの店の歴史が刻み込まれている」と感じたという。そして、生半可な覚悟では店を継げないと決意。当初は「A&A CAFÉ」と「南国」を両方続けていくつもりだったが、2018年8月から経営していたカフェの権利を知り合いに譲渡し、南国の経営に専念することにした。

前に経営していたカフェでは調理は主にシェフに任せ、それほど調理場に立たなかったという石井さん。今ではすっかり白衣とコック帽が板についている

お店の前に並んだお客さんに席の準備ができたことを伝える石井さん。頭上のひさしには、書道サークルの学生が書いた、味のある「南国」の文字が掲げられている

カツカレー(850円)

 かくして、伝説の名店の経営を継いだ石井さんだが、やはり以前からの常連に「前と変わらないおいしさ」と言われるのが一番うれしいと語る。「レシピをみっちり仕込まれ、全て以前と変えていない。というのに引き継いだ当初、SNSに『しょうが焼きの肉の量が減った』と書かれたんです。だったらと、肉を増やしちゃったんですよ」と大らかな人柄をにじませる。南海を継いだきっかけも、カフェを始めた当初参加した商店街の寄り合いで、すぐ親しくなった先代の、「誰かが継いでくれれば」とのつぶやきに、冗談めかして立候補したことにあった。突然引退を決めた先代の念頭には、ずっとそのやり取りが刻まれていた。そして、場所だけでなく、南海の味自体を受け継ぎたいという、石井さんの意志に先代も信頼を託した。
 そのしょうが焼きにエビフライが付く「海老フライ・しょうが焼き」が人気だ。使用するエビはブラックタイガー。衣を素早く付け、スッと油に放つと、粒立つ泡がフライを包み込む。完成したエビフライはかなり大ぶりなのに、衣は薄めで身の味もしっかり。ソースはむろん合うが、醤油をかけると、エビの甘みがくっきり立つ。スパイシーなしょうが焼きと取り合わせるには、確かにベストな選択かもしれない。

店内は以前と変わらず、南海らしい風情を保つ。今はもう使っていないレジや食券ケースなども、訪れた卒業生が懐かしめるようにそのまま置かれている

揚げ物とフライパン調理を巧みに並行するのも先代譲りの技だが、身のこなしは軽やかだ。カウンターの上に置かれた瓶入りの酒をサッとフライパンに入れて調理していく

 メニューも味も以前と寸分変わらないのに、なぜ現在の店名を「南国」にしたのか。石井さんによると、神保町本店で何年か修行し、独立した者だけに「南海を名のることが許される」不文律があったという。
「もう創業者も亡くなったし、『そんなしきたりにこだわることないよ』、と先代は言ってくださったんですが、いきなりそう名のるのもファンの方の手前、おこがましいなと思ったんです」
 南海といえば、本店由来の黒カレーで知られる。薄く肉をたたいて揚げるかつがのり、小麦粉と玉ねぎをじっくり炒めて黒みを出した、ソースたっぷりの「カツカレー」が特に人気だ。しかし、のれん分け店では本店と趣を変えたカレーを提供する店も多い。早稲田店の場合、見た目は普通の洋風カレーだ。石井さんは理由をこう語る。
「本店の黒カレーは実は甘みが強いんですね。若い人は次第に激辛志向になったので、『ウチのカレーは辛くしたんだ』と先代からは聞いています」
 確かに一口目から辛さが際立ち、見た目を心地よく裏切られる。玉ねぎの甘味とスパイスのバランスが絶妙だ。これなら130円上がるが、150グラムと目方も3倍になる「上カツカレー」(980円)も選びたくなる。

壁にかかる木製のメニュー表。メニューは不変だが、値段の文字は新しくより白い。いくらか値上げをするも、学生の懐事情を考慮して1,000円の大台を超えないようにした

「カツカレー」用の薄手のかつ。じっくり火を通す厚手のかつと違い、短時間で揚がる分、逆に絶妙な手際が求められる。食感は衣はサクサク、肉はしっとり

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